緑の帽子…
現代中国を知るためには、どうしても(当り前のようだが)元代以降の歴史は大事である。ちょうど日本で言えば鎌倉時代以降の歴史が重要なように。
先日、家内と知り合いの中国人の先生の講義を聴きに行った。中国の習慣とタブーを知るというテーマで、中国語講座の発展版(普通は大学生のための講義だが、たまたま社会人向けにも開放されていたらしい)のようだった。
年配の人には置時計や掛時計を送ってはいけない。到着したばかりの客人には水餃子を避ける。贈り物に梨や傘を避けるなどなど。非常に興味深かったので、またいつか紹介したいところであるが、長年の謎が今回一つわかったので、それをここに紹介したいと思う。
「戴緑帽子」という言葉がある。中国の男性はそう呼ばれるのを避けたいそうだ。
このこと自体は私も実は知っていた。もう10年以上前だが、派遣事業で中国へ初めて行かせてもらった時に、その準備に中国語の学習をしていた。その時にいっしょに中国語を習っている年配の方が面白い質問をされ、中国の先生(上海出身)はたまげていた。
日中友好の関係で、団体で中国を訪問することになり、日本の知事だか市長に挨拶にいったところ、非常に良いことだから、ぜひ頑張ってきてほしい(何をがんばるのか…?)とのことで、緑色のベレー帽を年配の男性に知事さんが配ったそうだ。(女性は赤色)
おそらく中国の人民帽のイメージだろう。赤は勿論縁起のいい色なので問題はなかった。
さて、一行が中国に到着するとどこでも大歓迎。ただ、いつもなぜか訪中団の日本人男性の帽子を見ては、変ににやにやする中国の人が多い。これはなにか理由があるはずだと、現地で通訳さんに聞いてもはっきりしたことを答えてくれない。ただ、「まあ、外国の人だから仕方がないし、知事さんからプレゼントされたんではねえ」と同情されたという。
そこで、帰国してきた訪中団の一員の年配の男性が、中国語の先生に訳を聞くと、緑色の帽子をかぶった男性は「妻を寝とられた男、あるいは奥さんが不貞を働いている」というような意味がありますと説明してくれた。先生は明代の進士についてを専門に勉強され、さらに大学では夏目漱石や森鴎外などを研究された人なので、このことについての歴史的背景を話したそうであったが、あまりに衝撃的?な内容であったので、中国語講座は騒然となって、詳しい話は聞けずじまいであった。
それが、今回の社会人講座で中国の先生(ハルピン出身)の話でよくわかった。唐代から妓女の家族は封建社会で差別されており、平民が着る服は着ては行けなくて、緑色の服を着せられていた。その後元代になって服だけでなく、緑色の頭巾をかぶせられ、大通りの中央を歩いてはいけないなどの差別が加わった。その後明代も継承され、清代になって緑色の頭巾が帽子に変わったそうだ。そこで、今も(今は実際にそういうことはないが)緑色の帽子を被る(戴緑帽子)ことは、妻が賤業婦である→不貞を働いているという意味であり、一種の蔑称や悪口になっているようだ。そのように呼ばれることは中国の男性にとってもっとも恐ろしいことだそうだ。
もちろん、これがどこまで歴史的に正しいかは私にはよくわからないが、少なくともそう信じられていることは興味深い。現代中国語の言い回しがこうした時代の風習に深く根ざしていることは、ある意味当り前のことである。
日本の人の中には中国の歴史が詳しいと思って、元・明・清あたりの歴史は当然知っていると思ってはしょる人がいるが、古代(春秋戦国や秦漢三国)あたりは詳しくても、元以降の歴史や風俗はまったく知らない人は多い。現代中国人にとって常識的なそのあたりの話を、中国の先生に詳しく教えてもらいたいものである。



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